芸術・自然・歴史の融合/公益財団法人 本間美術館

公益財団法人 本間美術館Hommna Museum of Art

コラム

古文書の見方③ 【署名の書き方】

学芸員:須藤 崇

第2回目は【紙の種類】として「楮紙」と「斐紙」について解説しましたが、第3回目は【署名の書き方】について解説します。

 

【署名の書き方】に注目!

文書を作成する際には、自分と相手との身分差に応じた書き方のルールがありました。その中には、署名の仕方も含まれています。通常の書状では〈名前+花押(サイン)〉の署名が一般的ですが、宛先の人物が差出人より目上の場合や、格式張った文書では、姓や官職名も略さずに記す丁寧な様式が採られました。逆に宛先が家臣など目下の場合、名前も略し花押のみを書く尊大な様式になります。

 

■作品例(官職名+名前+花押)

読史堂古文書《織田信長書状 上杉弾正少弼宛》 (永禄12年/1569ヵ)10月22日 館蔵
織田信長(1534~1582)が上杉輝虎(1530~1578、のちの謙信)に宛てた、鷹二羽を贈られたことに対する礼状です。鷹狩りは、信長の代表的な趣味の一つであり、大変珍しい鷹を贈られたことで非常に喜んでいることがうかがえます。


当時の上杉謙信(輝虎)は、織田信長よりも家格、官職ともに格上でした。宛名(上杉弾正少弼)の上には「謹上」、宛所の書き始めが日付よりも若干上に書かれています。また、姓や官職名を略さずに書くことは厚礼であり、信長は自分の名前の上に官職名(弾正少弼)を書いて、花押を据えています。謙信に対する織田信長の敬意が感じられます。

 

■作品例(名前+花押)

重要美術品『穴沢文書』
《長尾景家一字書出 穴沢次郎五郎宛》 永享4年(1433)8月6日 館蔵
一字書出とは、主君が自分の実名(諱)の一字を一族や家臣に与える際、与える文字を記した文書のことです。元服などの際に一字を賜ることがあり、主従関係を再確認するという意味もあります。これにより、穴沢次郎五郎は主君の長尾景家より「家」の一字を賜り、「家長」と称したことがわかります。
差出人が署名する位置に注目して見てみましょう。文書の始まり部分(「袖」という)に署名する行為は、差出人が宛先人より目上である場合に限られていました。この場合、差出人の景家が宛先の穴沢次郎五郎の主人に当たることから、袖に署名しています。

また、差出人の尊大さが最も強いのは、「袖」に花押のみを書く場合ですが、景家は花押だけではなく名前も記しており、景家が穴沢氏をある程度尊重していることを反映しています。

 

■作品例(花押のみ)

《徳川秀忠書状 安藤帯刀宛》 (年未詳)6月24日 館蔵
江戸幕府二代将軍・徳川秀忠(1579~1632)が安藤直次に宛てたもので、鷹の雛(鷂・はいたか)を五羽贈られたことに対する礼状です。

名前を書かずに花押のみが書かれていますが、これは差出人(徳川秀忠)の相手(安藤直次)に対する尊大さを反映しています。直次は、譜代の家臣であり、宛所が日付よりも低く書かれており、「殿」も大きく崩れ「とのへ」に近い形(崩れるほど目下にみている)になっていることから、秀忠と直次の上下関係がうかがえます。

 

次回の最終回は【宛所の位置】について解説します。

2018.02.03


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