芸術・自然・歴史の融合/公益財団法人 本間美術館

公益財団法人 本間美術館Hommna Museum of Art

コラム

series:戦没画家 岡部敏也の芸術 4/4

学芸員:阿部 誠司

約20年ぶりの展覧会で再注目されている岡部敏也。
彼の人生と、生そのものであった作品についてご紹介するシリーズです。

 

 

第4部:自画像と戦火で不明となった幻の大作

 

自画像について

岡部敏也に限ったことではなく、戦没画学生たちの作品からは戦時下での希望や絶望、祝願や断念など、
若く鋭い感受性で時代の影をとらえた表現や匂いがにじみ出てくることはありません。
その中で、強烈な視線を感じる戦没画学生たちの自画像だけは、特別な意味があるように感じられます。

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※一番左が16歳の時に描いた自画像。他は東京美術学校時代に描かれたもの。

DSC04843 自画像
※鉛筆と木炭で描かれた自画像。東京美術学校に入学しデッサン力が格段に向上。その眼差しにも注目したい。

 

鏡に映った自分を描く作業の中で、作者は常に自分の目と向き合うことになります。
自分の目をのぞくことに熱中し、背後から迫る時代の圧力や死の影などあらゆるものを排除する。
自らを純粋化することで、作者は戦時下でも画家として生きることができたのかもしれません。
それが目の光の強さとなって表れているのではないでしょうか。

 

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※左は20歳前後に、右は出征前の23歳頃と思われる自画像。どちらも油彩画。
 油彩画は何度も重ねて描くことができるので、じっくり時間をかけて描く自画像に向いています。

 

左は、ハチマキをして(手拭いを被って)画室にこもっていたという、敏也の制作時のスタイルを描いています。
他の風景・植物・人物画に比べて、とても絵が暗く重く感じられます。

この頃に近い時期の敏也の写真があります。
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※添えられた言葉(自筆)
岡部敏也 
彼は男である 彼には人一倍大きい二つの眼があり 無格好ながら鼻も顔の中央についている
彼は鋭気溢れる青年である 未来の覇業を夢みて 彼の心は鬱勃(うつぼつ)たる野望に燃えている
敏也よ 驀地(まっしぐら)()に進め お前は男である 一筋の道を驀地に進め      昭和十四年一月

 

こんなにも画家になる希望と学ぶ気迫に溢れた顔をした青年ですが、自らと正面から向き合った時、
心の奥底にしまっている繊細で敏感な感性が絵に表れているのではないでしょうか。
最も肝心な眼が描ききれていないところも、将来への不安や運命を受け入れない本心が感じられます。

 

一方の右の長髪を自画像は、画面が明るくなり、眼もしっかりと描かれています。
数年の間に、敏也の心中でどんな変化があったのでしょう。

22、23歳は最も多作な時期で、どれも大作で秀品ばかりです。
酒田で天才と言われた青年が全国デビューし、学生ながら実力は画家として認められていました。
その自信の表れでしょうか、まっすぐに前を見つめる目には落ち着きが感じられます。

この自画像が描かれて間もなく、敏也は出征したと思われます。
婚約者にも別れを告げました。描きたい!もっと描きたい!そう周囲にも漏らしています。
戦時下に生まれた運命を受け入れることができたのしょうか。
この覚悟を決めたような表情からは、複雑な敏也の心境が伺われます。

 

 

 

戦火で不明となった幻の大作

 

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東京美術学校時代、公募展への出品が許さるようになる3・4年生の間に、敏也は力の限り制作に没頭します。
この2年間に生み出された作品は、数多くの公募展で賞を与えられ、美術学校に買い上げられました。

しかし、戦時中に紛失したのか破損し除籍されたのか、現在の東京藝術大学には岡部敏也の作品はありません。
奇跡的の残った写真でその存在を確認することしかできず、色彩やタッチ、サイズなどは想像するしかありません。

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現在の藝大美術館の美術品台帳には、≪雪国訪春≫1点が買上げと明記されながらも赤線で抹消されています。
≪雪国訪春≫とは、写真だけが残っている≪山びこ≫と呼んでいる作品だと思われます。

こうした特に秀品と評価された作品が、戦時下に失われてしまったことは残念でなりません。

 

 

最後に…

展覧会を開催し、岡部敏也の次世代を担ったであろう素晴らしい才能と、彼の生き方、志に心を打たれました。
戦没画学生であることが彼を美化し評価を高めているのではなく、作品が時代を超えて感動を生む本物だからこそたくさんの人たちの関心を集め、感動を与えるのだと思います。
当館では、学生であっても彼は最期まで画家として生きたと評価します。
戦争がなければどんな作品を描いていたのだろう…どんな画家たちと名を連ねる存在になったのだろう…
そして、戦争でどれだけの若者の未来がが無念のうちに散っていったのだろう…
私だけでなく、来館者の多くが様々な想いを胸に鑑賞する展覧会となりました。

2016.08.20


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